こんにちは。院長の小濱です。
最近、うさぎの手術の問い合わせが続いていたので、少し関連したお話です。
これらの写真は、すべて全身麻酔中に麻酔ガスや酸素を効率よく送るための器具です。
2番目の写真は一般的な気管チューブです。主に犬猫の気道確保に使用します。
ダイレクトに気管の中に挿入するため、最も確実な気道確保が可能です。
しかし細かいことを言うと気道粘膜の傷害や刺激が一時的に生じます。
ちなみにウサギではこの方法はとてもスキルが必要で、かつ組織が弱いため気管を傷つける危険性もあります。ちなみに僕はやったことはありません。
そういう理由で従来は3番目のマスクを顔にかぶせてウサギの全身麻酔を行っていました。
簡単な方法ですし多くは問題ないのですが、ガスが食道にも入るため胃が膨らんだり、期待した濃度まで麻酔が到達しない問題があります。しかもいざというとき強制的な呼吸が困難なのです。
そこで登場したのは1番目のv-gelと言われる新しい気管チューブです。
これはウサギ専用のもので、構造的には気管の入り口に管をかぶせてしまうというものです。
次が実際の挿管後の様子です。
挿入はとっても簡単です。(もちろんそれまでに段階的に鎮静をかけて安全に挿管できる準備を行っています)
物自体はプルプルな柔らかさなので傷つける恐れはほぼありません。
しかも気管内に挿入することなくぴったりフィットして気道確保してくれるので、胃が膨らむ心配もありません。
マスクでは呼吸モニターの画像をみても検出できないことが多かったのですが、これだとしっかりモニター上に呼吸数や二酸化炭素濃度、麻酔ガス濃度が数値化されます。
もちろんこれだけでウサギの麻酔リスクがゼロになるわけではありませんが全身麻酔が安定しやすくなったことは確かです。
難点は完全な固定ができないので体を動かすとずれやすいというところですが、外れることはないので許容範囲ではないかと思います。
ウサギの麻酔・手術は発展途上な部分も多いと思います。
こうやってどこかで誰かがいいものを作ってくれることで、また一歩進める領域が広がるのではないでしょうか?
私自身もまだまだ学ぶことが多いです。技術と五感を磨いてさらにリスクを減らす努力をしなければいけませんね。
近々ウサギの子宮疾患の症例をご紹介しようと思います。
コメントをお書きください
mami kishi (日曜日, 31 1月 2021 21:52)
はじめまして
うさぎの避妊オペの麻酔について
とても心配しています。
気管挿管をしてもらえる、病院のほうがいいですか?
まぐ動物病院 (月曜日, 01 2月 2021 15:26)
mami kishiさん
初めまして。院長の小濱です。
ご質問ありがとうございます。
安定した麻酔濃度、呼吸状態のモニターのしやすさ、などはブログに書いたような挿管ができるとやはり細かい情報が得やすくなります。
当院も口腔内の手術以外はほぼv-gelを使用していますし安心感はありますね。
ただ、体格が小さくサイズが合わなかったり、口腔の手術などでは今もマスクや鼻‐気管カテーテルでの維持麻酔を実施することもあります。
麻酔ではより確実な生体情報が得られ、より安全な麻酔法を選択すべきとは思います。
しかし同じくらい重要な点としては実施する術者が最も慣れた方法を選択することです。
そういった意味ではマスクも挿管もある程度確立した方法ですから、挿管が絶対ではないですよ。
避妊手術のように健康体に行う確立した手術であればマスクと挿管で大きなリスクの差はないと思います。
私も5年前まではマスクがメインでしたがとくに大きなトラブルはありませんでした。
挿管がメインになってからの違いは最初にも書きましたが麻酔深度の安定性や呼吸状態の情報が得やすくなりました。その分手術に集中できるわけです。
ご参考になれば幸いです。
mami kishi (火曜日, 02 2月 2021 13:37)
先生、ありがとうございました。
麻酔のリスクは人間でも様々です。
自分自身が挿管なしのマスク全身麻酔をうけたときに、意識がなくなる前にとても、苦しかったのを経験しているのと、もう1羽の避妊の後一週間も餌を食べなかったこともあり必要以上に不安で心配しております。
また、私も技術者の一人として感じるのは
おごりのない先生がいいと思っています
オペは技術は100人が100人とも上手くいくとは限りません。相手あってのこと。
相性もあると思います。
今回、受けさせようと思っているうさぎは
敏感な子です。
そして、とても俊敏に動きます。
なかなか人になれずに一年が過ぎましたがまだ飼い主の私達にも心を許さないです。
それだけ野生に近い子なので麻酔には
心配と不安があります。
もう少しオペを先延ばししたのがよいのか
もしくは、主治医とよく話をしたほうがよいのかずっと不安で仕方ないです。
おそらく、現在健康で元気にしているからだとも思います。
ブラインド気管挿管法は画期的で飼い主側からみれば是非とも使ってもらいたいと思います。それが愛兎家の私の願いでもあります
元々は人間のエゴで避妊オペするわけなので
長くなりましたが、最後にお言葉いただければ幸いです。
まぐ動物病院 (火曜日, 02 2月 2021 16:10)
mami kishiさん
お返事ありがとうございます。
ウサギの麻酔は他の動物以上に時間も慎重さも必要になってきます。
ガス麻酔は嗅いだことがある方ならわかると思いますがとても刺激臭があります。
理解できる人間でも拒絶するのですから、動物では意識があるうちにマスクでガスを嗅がせると間違いなく暴れます(ボックスに充満することもありますがそれも前処置なしでは危険です)。
また、ウサギでは「息こらえ」という現象が顕著で、十分な意識レベルの低下がないとマスクでガスを嗅がせたときに体は不動化していてもひたすら息を止めてしまいます。
基本的にはどの動物でも前処置、鎮静、導入、挿管、ガス麻酔の順に行われます。
あくまで私の方法ですが、当院の場合まず酸素化と注射で十分な鎮静を行います。
十分な鎮静化と呼吸の安定が見られたらひとまずボックス内で酸素とガスを導入し呼吸の抵抗や体動がないか観察します(少しでも抵抗があるようならもう少し鎮静が深くなるまで静かに見守ります)。
安定していればマスクでガス導入しても問題ないため麻酔導入薬を注射し、マスク下で毛刈りや洗浄を行います。
ここまでくると喉頭の反射もほぼないため安全に挿管できますから、本格的にガス麻酔に入ります。
敏感な子も意識下で無理な拘束をしないこの方法であればほとんど安全に行えています。
私もいろいろな報告を参考に今の麻酔法に落ち着きましたが、この辺りの手技は各獣医師で異なる部分はあると思います。
肺が小さく肺活量が少ないため当院では手術台を傾けて実施したりなど、ウサギでは手術に入るまでに様々準備を行い少しでもリスクを少なくする工夫が考えられています。
不安に感じられる部分は主治医に確認されるのも大事だと思います。
ちなみにウサギさんの避妊手術は6カ月を過ぎたら早いに越したことはないと思います。
ある報告では4歳以上の子宮疾患の有病率は70%というデータもあります。
当院で見る限り微小な病変を含めれば4歳以上では90%はあるのではないかと考えています。
エゴかもしれませんが、動物を飼育するという時点で「自然」ではありません。
10年は元気に生きてくれることも多くなった現在ではその有病率を考えると、避妊手術は立派な思いやりだと思います。
あくまで私の私見もありますので参考までに。
取り急ぎの文章ですので分かりにくい部分もあるかと思います。
ご不明な点は遠慮なくご質問くださいね。
よろしくお願いいたします。