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ウサギの子宮疾患

こんにちは。院長の小濱です。
前回はウサギの気道確保について触れさせていただきました。
今回はウサギの子宮疾患についてです(快くご協力いただいたオーナー様に感謝いたします)。

 

 

ウサギの来院理由で多いのは消化管機能低下(いわゆる毛球症など)、不正咬合、子宮疾患です。
とくに子宮疾患は犬や猫と比較しても発生率の高い要注意な疾患です。

しかも症状が乏しいことも多く、受診が遅れたり診断に苦慮し手遅れになるケースも珍しくありません。

 

4~5歳以上のウサギの約半数以上では何らかの子宮疾患を認めるという報告もあります。

発生する子宮疾患は子宮水腫・内膜過形成・腺癌などです。

 

多い症状としては”血尿”です。
膀胱炎との鑑別が必要ですが、経験上女の子のウサギの血尿は子宮疾患であることが多いです。
またウサギは子宮の構造上、膣に血液が溜まりやすいため見た目の血尿は出たり出なかったり…。
そうやって様子を見ているうちに貧血が進行すると手術すら困難になります。

実際、過去に僕自身もそういう反省すべき経験がありました。

 

子宮水腫に至っては血尿もないケースが多いため、偶発的に発見されたり限界まで巨大化して食欲低下でようやく発見されるケースが多いのです。

ウサギの飼主さんは勉強熱心でよく観察されている方も多く、「最近お腹が少し大きくなった」とわずかな異常に気付かれる方もいらっしゃいます。

こちらは実際に当院で摘出した子宮水腫の症例です。
6歳半のはるちゃん、体重は1.9㎏。臨床症状は全くありませんでした。が、小さなお腹の中にはこんな大きな子宮が隠れていました。

約400gもの重さがありました。

体重の1/5に相当する大きさですから、摘出時には急激な血圧変動にも注意が必要です。


ウサギの正常子宮は太い筒状の膣とそこから左右卵巣にむけて子宮角が細長く伸びたY字状をしています。
この症例は右子宮角に巨大な水腫を形成し、左子宮角の末端には3㎝ほどの結節病変が形成されていました。
この症例のように片側性の子宮水腫では普通に食欲を維持しているケースも少なくありません。
ウサギにとって「食欲がある」は必ずしもあてになる指標ではありません。


水腫の中身はやや混濁してはいますが、ほとんど細胞成分のないお水です。

出血している傾向はありません。

 

しかし、病理検査の結果は「子宮腺癌」…。

悪性腫瘍でした。反対側のいかにも悪そうなしこりは逆に良性病変でした。


一般的に水腫は良性が多い印象でしたが、今回の結果は非常に重要だと思います。
血尿もなく顕著な症状が少ない水腫のほうが発見が遅れやすい可能性があります。

必然的に悪性腫瘍の転移率は高くなることが予想されます。

 

子宮の状態・血尿の有無にかかわらず、ウサギの子宮疾患は生死レベルの疾患です。
それが決して低くない確率で発生する現実は予防的避妊手術の重要性を物語っています。

 

 

一般的には6か月~1歳までの避妊手術が推奨されています。

4歳以上での避妊手術を検討される場合には術前検査(血液検査やレントゲンなど)を実施されることをお勧めします。

超音波検査は術前に子宮の状態をある程度確認することができる有効な手段です。

子宮水腫

子宮内膜過形成

子宮腫瘍


今回の症例にご協力いただいたはるちゃん。

じつは同居だった子も子宮疾患でしたが手術に持ち込めず、僕は救ってあげられませんでした。
はるちゃんは術後も良好に経過していますが、「悪性」と出た以上今後も慎重に経過を見守る必要があります。

 

亡くされたうさぎさんを教訓にオーナー様が早々と手術を決断されたことがよい結果につながればと願います。